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自由保育の幼稚園に勤めていた頃、私のクラスにR君という男の子がいました。彼は、お姉さんと2人兄弟の弟、おとなしく優しい性格だったので誰からも好かれる存在でした。クラスの中では、元気な男の子の先頭グループに入っていましたが、リーダーになれる素質を持ちながらも前にしゃしゃり出ることなく、常に2番手の位置をキープしていました。
幼稚園では登園すると自分のお支度を済ませてすぐに、それぞれ好きな所で好きな遊びを始めます。外では、泥んこ遊びをはじめ、土を掘り返して虫を捕まえたり、三輪車、鉄棒、竹登り、ごっこ遊び、お部屋では、大型積み木、折り紙、お絵描き、粘土、その他ダンスを創作して踊っていたり、マイクで独唱していたりと様々です。先生はどの子がどこで遊んでいたかを把握する為、午後には毎日職員会議を開き1人1人の子どもについて細かく話し合っていました。
その話し合いで「最近、様子がおかしくないですか?」と話にのぼったのがR君です。確かに仲良しのグループでも、彼が原因でもめることが多くなっていました。そんなある日、事件が起こりました。その日、子ども達は庭に画板を持っていきチューリップの花を描いていました。R君もその中に混ざっていました。しばらくすると、R君が苦しそうに声を押し殺して泣いていました。どうしたのか訳を聞いてみると「描けない・・・」とヒックヒックしています。「えっ?」私は驚きました。自由保育の園なので、別に描きたくなければ描かなくて良いのです。それは2年間通っているR君は当然理解していることです。
そこへ、園長先生がやってきました。そしてR君の姿を見ると「もっと大きな声で泣きなさい。泣きたい時は大きな声で泣くの!もっと、ほら、もっと泣きなさい。」と言いました。R君は今まで見たことのない姿で、今まで泣けなかった分を1度に吐き出すように、大きな声でワンワンと泣きました。
実はその頃、彼は小学校受験を目指し塾通いの毎日だったのです。お母さまは彼のことを考えて、幼稚園では自由にたくさん遊ばせて発散させる、その後家ではしっかり勉強をさせるという作戦を立て、それを実行していました。特に真面目な性格だったR君は、期待に応えようとするプレッシャーや、完璧にやりたい気持ちを自分の中にも大きく持っていた為、知らないうちに幼稚園でお友達にイライラをぶつけたり、自分ではどうしようもできない気持ちを抱えきれずにいたのです。
その次の日、R君は力強い真っ赤なチューリップの絵を幼稚園に持ってきました。少し恥ずかしそうに手渡された絵をお教室の一番目立つ所に貼りました。その日を期に幼稚園では元通りのR君に戻り、今までよりも一層表情が豊かになりました。きっと一番自分らしくいられる場所を見つけたからでしょう。
今でも、チューリップが咲く季節になると必ずその絵をふっと思い出します。そして今ではお受験の世界にどっぷり入っている自分を不思議に思います。
4月は「あと受験まで半年」と焦るご両親の気持ちが、子ども達には目に見えない不安となってのしかかる時期です。幼稚園や保育園の先生と密に連絡をとる余裕を持ち、お子さんの様子を正確に把握して頂きたいと思います。
ちなみに、R君は第一希望の某有名私立小学校に入学しました。でも本人は卒園の日まで、幼稚園のお友達と同じ小学校に行きたいと話していました。
(エスポワール理事長:ウォーカー和子)
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